かまくら

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縦縞の魚が絶え間なく揺れている。指をさして名前を質問した。

「きっとそこに書いてあるよ。」

彼女の言うとおり。覗き込んだ銀のパネルは、黒い字で名前を載せていた。ヒレナガ・・・?どうしてしましまだってことを名前で表さないのかな。きっとその方が間違えないのに、みたいなことを思った。横切る人の声がやけに近くに感じてビクッとした。薄暗い通路は距離感が掴みにくい。水族館は独特のにおいがして、なんとなく落ち着かない。

「魚がきれいとかいう感覚、わかんないや」

お互いもしくはどちらかが不愉快になったり理不尽を強要しない限り、価値観を共有する必要はないとわたしは思う。だから、何度か軽く頷く。相手は(こいつ、聞いているのかな?)といいたげな怪訝な目をした。銀色の魚がちかちかしながら水槽を登る。イワシかな。見上げながら亀のぬいぐるみが欲しいなと呟くと「こういうテンションで買ったぬいぐるみはすぐにいらなくなるから絶対買わないほうが良い」と願いに唾をかけるように放った。

その通りだと思う。人にどう思われるのか気にしないで退屈さや不機嫌さ、関心のなさをありのまま表現できる素直さがかわいかった。わかりやすいひとが好き。近かったのでたびたび鎌倉に出かけた。なんとなく気が向かないとすぐに小田急線に乗る。休日の混雑はいやだけど、人目の避け方はすぐに覚えた。

私はしばらくそこにいることにした。大学生だったので、東京には用事のある時だけ帰れば良かった。パン屋さんとか、朝早く開くコーヒースタンドにも詳しくなった。あちこちカフェに行ったけど、最終的にはハンバーガーとエビがあれば良かった。毎日、規則正しく駅に向かう中高生と逆方向へ歩いた。海を見たり本を読んだりした。暗くなるのが早い街だけど、いつも歩き疲れていたから夜は簡単に眠れた。なんとなくその場の感覚だけで「こんなに過ごしやすいところはない!」みたいなテンションでいた。かなり確信していたはずだけど、根拠となる主張はまったく思い出せない。

由比ヶ浜のことばかり考えてすごした。準備が面倒なときはホテルに連泊した。海が見える電車は何回乗っても楽しい。その時ずっとここに住むんだといっていたのに、結局いろんなことが重なってるうちに、いつの間にか東京に戻った。

でもそのうち、また鎌倉で生活しようと思った。大学四年の私は、思いついたいろんな大好きなすべてが、永遠に最高なのだと思っていた。

お昼寝していたらその頃の夢を見たよ、と彼女に連絡をする

「そんな夢みるとか、ぜったい嘘だろ。」

相変わらず、切り捨てるのが早くて笑ってしまう。うそじゃないことを証明するより面白いので、それ以上主張しなかった。

私はいつも昔より今が一番好きで、明日はもっと楽しくなればいいなと思う。夜通し薄明るい東京にいるほうが落ち着く。海もたまにでいい。あんなに好きだったお店のご飯より美味しい物を見つけてしまった。

それから三分くらいして、あの時水族館でふざけて買ったださいキーホルダーの写真がアップされた。すっかり色褪せて、使用感がある。私も買ったんだけど、どこにあるか分からない。というか、きっともう失くしちゃった。

「でもなんとなく、鎌倉って言葉を聞くと手が止まるんだけどね」

と別なお話のついでに話す。意外な返信がきて、どうってことないような切ないような気持ちになった。

「うん、私も。」

 

そんな一日でした。おやすみなさい、よく寝ます。

今日食べたもの アボカド、鮭、たまご、アイス、あんぱん。