友達が「うつ」と診断されて休職するまでの話

 

〒 みなさま

皆さんこんにちは(*´∨`*)円野まどです!

今日は去年友達が休職したことを書きます。

特に役にたつ知識とかはなく、あくまでこんなことがあったよーという日記ですがどこかの誰かの人生の話なので、お時間があるときなんとなく読んで思うところがあれば幸いです( ∩ˇωˇ∩)休むべきときは、身近にあるということを1人でも多くの人に知っていただければ嬉しいです。

 ※長いので閲覧注意

友達が「うつ」と診断されて休職するまでの話

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はじめに

うつに関しては、その症状は傾向こそあれ実にさまざまで個人差のあることだと考えています。今回書くことは一例であって、その状態にある方すべてに適用されることではないことを予めご理解ください。

あくまで「私の友人のケース」です(*´∨`*)

登場人物

Aちゃん 年上のお姉さん。とてもおしゃれ。繁忙期は残業80-120時間。

私 円野まど ひきこもりの甘ったれ。

 

*年の離れたともだち

 

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「そういうのってあるよね~。」

頬杖をつきながら、Aちゃんが目の前のデザートをつつく。午前中のテラス席は陽のひかりが眩しい。

Aちゃんと私は月に二回くらい、どこかで朝食を一緒に食べた後少しお散歩する。

彼女と仲良くなって数年、それは一度も途切れたことが無い「行事」だった。

初めて会ったのは、私が大学生の時だ。

知り合いの知り合いで、「なんだかエリートの人」というものすごいざっくりしたカテゴリで紹介されたことを覚えている。

私は当時から意識の低い人間だったので、「エリート」と紹介されても「そっかあ」と何も考えずに相槌だけ打っていた。その時も今も、容姿や職業は情報の一部でしかなくて好悪には直結しない。そして「知らない人」は知らない人なので緊張がすごくて、最初はろくに目もあわせられずにいた。自分から話しかけることも出来ない。知り合いの輪の中の1人。

だけど知れば知るほどすごいひとだな、と思った。

話は早く、おしゃれで、面白い。

そして何より誰も不快にさせないで過ごせる人だった。

Aちゃんがいる場はいつも皆が満足して、「また話したいね」と言って帰っていく。多分目の前の人だけじゃなくて、広くその場や時間全体を見ているのだろう。彼女が何気なく変える話題のそこかしこに、いつも何かや誰かへの配慮があった。

仲間はずれを作らないために細心を怠らないから多くの人に信頼されていた。その上とても仕事ができて、いつも二歩・三歩先の事や将来的なことを見据えて動く。

会うたび彼女は完璧な人だと思った。

私はまるで正反対で、いつも鈍くて遅くて、自分のことばかりだ。

人が多い場所も苦手で、彼女と出会ったばかりの頃も随分失礼なことをした。

けれどそんな私の度重なるただの無礼をAちゃんはいつでも許してくれて、「まどちゃんは素直だから。」とたくさんのフォローをしてくれた。

仲良くなったきっかけは、私の服装のことだった。

大学生の頃の私は自分の着るものに関心が少ない上、人見知りが強く店員さんと会話することが出来なかった。だからサイズを見ないで買ったぶかぶかの服を着ていたのだけど、Aちゃんはそれを知るや否や急に顔色を変えた。

次の日、ファッションビルの開店時間に待ち合わせをした。

初めて遊ぶ、しかも一対一で、なのでとても緊張をした。

けれどその日皆を受容していた微笑は、彼女の顔には浮かんでいなかった。

Aちゃんはファッションが好きだ。とても、好きなんだと、思う。

「だめ!そんなドブみたいな色の服!何になるつもり?!もしかして光学迷彩コーデとか目指してる?!従軍に興味とかあるの?!こっち!この白いほうを試着なさい!」

少しでも目立たない色を選ぶ私にAちゃんからの熱い指導が飛ぶ。

会うたびに彼女の「よそゆき」の顔はどんどん崩れた。

Aちゃんは外で見せている完全な笑顔の中に、大変な毒舌とユーモアを隠しているのだとわかった。彼女はそれを「自分の裏の顔」と呼ぶけれど、普段は周囲を思って自分をガマンしてるんだな、とやっぱり優しい人なんだとわたしは思った。

周囲の人は私たちが仲良くなったことをよく不思議がった。

それは彼女は私より10個上で、私の血の繋がった姉よりもずっと年上だったからかもしれない。Aちゃんからの扱いも友達、というより「妹と娘みたいなもの」とまわりに紹介してはよく面倒をみてくれた。

実際のところ、彼女は社会の何もかも知っているように見えた。

そんなわけないのに、時々そう錯覚してしまうほどAちゃんは私の前でいつも「大人」だった。

笑い話ばかりしていたけれど、急に機嫌が悪くなるとか、急にふさぎこむとか急にどこかにいってしまうとかそういうことはなくて、不安なことは説明をしてくれて、変化が苦手な私はとても安心して遊べた。人生に迷うたび、いつも押さえつけず、ただ後押しだけをしてくれた。

仕事で疲れるような事があっても「終業後に持ち込まない主義」だと言って終業すればその話はほとんどしない。愚痴すら言わないのだ。

一度Aちゃんが23時まで残業した後、そのまま映画のレイトショーに一緒に出かけたことがある。帰り道、彼女はあくびを堪えながら「やっぱ全然頭に入らなかったわ・・・!」といったので「それはそうでしょ」と返した。文に起こせばクスリともこないこのやりとりがその時おかしくて私たちは階段から落ちかけるほど笑った。

何か特別なことがなくても、空気があたたまって笑わせてくる。

そんな言葉がぴったりなほど、いつだってお腹を抱えていた。

「年が離れてるのに仲がいいね、ほんとうのきょうだいみたい」

誰かにそう言われた時、彼女はこう返事をしたのを覚えてる。

「まどちゃんは何でも顔に出るから。」

それは答えになっていないような気がしたし、相手もすこし首をかしげていた。

けど、Aちゃんの答えはいつも同じだった。

何となく、くやしくなって私はポーカーフェイスの練習をしたりもする。

いつもうまくいかないのですぐにやめて、まあいいかとなってしまってはAちゃんに「ほらあやっぱり」と笑われる。

ほんとはこうやって誰かと親しくなることはこわい。

何かに愛着をもつこともどこか怖い。

誰かを傷つけることも、こわがらせることも嫌だ。

誰かと何かを取り合うことはもっと苦手だ。

そうなるくらいなら、自分から消えたい。

それでは生きていけないと知っているけど、私は軋轢を生みそうな場所をいつも避けている。人と親しくすることはずっと避けてきた。

けれど、Aちゃんはいつも私が不安にならないような距離をとって私を見ていてくれたのだと振り返るたびに思う。優しく見守ってくれていることに気が付くのは出会ってからずっと後。

彼女は他者のことがわかりすぎて、自分の優しさを気付かせない。

 

*予兆

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多くの仕事がそうであるように、Aちゃんの仕事も年度末はとても忙しい。

年が明けたあたりから残業時間が急激に増え始めて、一月では60時間、二月は80時間と膨れ上がっていく。でもそれは、出会ってから毎年の事だったように思う。

「あーあ。やだな、また年度末だ。」

Aちゃんはそう言ってため息を吐く。三月一日のことだった。

家がごく近いので、残業が増えてからも夕ご飯をよく一緒にした。

彼女はいつものようにファッション誌をめくりながらヘーゼルナッツのコーヒーを飲む。私のあれこれに冗談をいう。私たちは場所を同一にしてるだけで大体の時間、お互いに違うことをしている。時々休憩のように少し話してまたそれぞれに戻ってそろそろ帰る時間だねって頃に帰る。

それは「普段どおり」のこと。

2人でバイバイしてドアが閉まるまでお互いずっとクスクス笑っている。

そんな今までの繰り返しに、疑問なんか浮かばなかった。

でも、この頃から予兆は既にあったんだ。

「それで、こんなことがあってスッゴク面白かったの。」

Aちゃんがやたらと職場のことを褒める時間が出来た。それとすごく饒舌だ。

「こんな面白い人がいて。」

「こんな面白いことがあって。」

「この仕事はやっぱりすごい。」

「こういう組織はやっぱりすごいよね。」

そうかと思えば

「仕事やめたい。」

「職場のこういうところがいや。」

「職場のこの人の、こういう仕事ぶりがいや。」

と、急に批判をする。

彼女はそもそも今までほとんど仕事の話をしなかったけど、その時から堰をきったようにその話題が増えていった。

私は大体のことを(生きていればそういうこともあるな)と思う性質で、それすらも変化だと受け取れなかった。

それからどんどん「仕事の話」は増えた。話に来る回数も増えた。

三月も半ばになる頃、Aちゃんは常に職場の話だけをするようになっていた。

いいこともわるいことも、笑うことも怒る事も、喜ぶことも悲しむことも全て仕事に関係していた。

私はそれをただ聞いていた。

大変そうだな、とは思ったけど意見をいったところでその仕事量が変わるわけではない。だから、ただガス抜きになれれば、なんてことを思っていた。

一緒に笑ったり、悲しんだりしながら最後に「聞いてくれてありがとう」と言われて笑ってばいばいと手を振っていた。その自分に何の疑問も抱かなかった。

それから四月が来た。

Aちゃんの休みが減り、殆ど会わなくなっていた。

一ヶ月に二度くらい、一緒に朝食を食べるという行事はその月行われなかった。私はそれも、さびしいけれど仕事が忙しいのだからしょうがないと気にしなかった。

ある時Aちゃんから、職場の人と出勤前に朝食を食べて、それがいいお店だったよという連絡が届いた。

お料理は見栄えするものばかりだけど抑える所を抑えた内装で、大人の行くお店という感じだった。ボリュームのあるサンドイッチがおいしそう。検索すると、エビがもりもり入ったメニューがあって、すごく行ってみたくなる。

落ち着いたらAちゃんに案内してもらおう。

写真も添付されていて、同僚の人達の楽しそうな笑顔のなか、Aちゃんの微笑を見つける。楽しそうな顔をしていたので何だかホッとした。

「ふふふ、忙しいけど息抜きは大事だよね。」

休日もほとんどない四月を過ごしている人達が、結束を強めるためにちょっといい所で朝ごはんを・・・という感じなのだとメッセージには書いてあった。

「稼いでますから!」と写真に入っていて、そのやけくそ感にふきだした。

私は家のテーブルに1人座って、水色のお皿に載せた目玉焼きを齧る。

「辺り触りなく誰とでも接するけれど、それこそが私の自己防衛ラインなの」

その時ふと、Aちゃんが前に言っていた事が過ぎった。

彼女は誰の事も全然好きじゃない、だから誰に対しても自分に接触しないように当たり障りなく接する。そんなことをよく言っていた。

思い出すうちに、手が止まる。さっきの写真にちょっとだけ違和感を覚える。

「防衛ライン」のことを考える。思考がぐらぐらつみあがるけど、答えがでない。

でも、人は変わるものだ。

同じ職場の人と困難を分かち合う内に打ち溶けられる人がみつかったのかもしれない。

好きな人が周囲に愛されることはうれしい。

だからそれならばそれで、良かったのだと考え直して食事を続ける。

 

四月、彼女の残業時間は160時間を越えた。

 

*限界

 

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五月の連休直前、Aちゃんの友達とばったり会った。

「Aちゃんってあんなにイヤミな人だったっけ。」

その人は挨拶もそこそこにAちゃんの傲慢さを語った。

話を要約するとAちゃんの残業時間を聞いたその子は、「そんなに働いたら死んでしまうから少しはズル休みしたほうがいい。」と諭した。Aちゃんは「仕方ない」と繰り返していて、これはおかしいと思って食い下がると「仕事の仕方なさは主婦にはわからないよ。」と答えたのだそうだ。

その人はAちゃんの大学の同級生で、やはり私の10個上の年齢のひとだ。

主婦のお姉さんはひとしきり怒ったあと、私もAちゃんには気を付けるように言い含めて去っていく。

私はとてもヒイキをする性格だけど、これはAちゃんが良くなかったかもなあと思ってすこし話そうと思った。歩きながら電話をかける。思えば彼女と話すのは三週間ぶりくらいだ。遅咲きの桜の花びらもすっかり落ちて朽ちている。茶色い吹き溜まりをみつめていると声が届いた。

「はい。」

ツーコールで、彼女が出る。とても高いテンションで、息つく間もないほど喋り、そしてこちらの用件を聞く前に私を食事に誘った。もうずっと休日らしい休日がないけど、それに慣れてきたという。

「今日は18時で帰るから、夜ご飯にいこうよ。」

それはとても、明るい声だった。その空気を壊したくなくてさっきの話を言い出すのは、ごはんの時にしようと思った。

彼女と会うのは久しぶりだ。何を着ていこうかな、何でもいいかな、また「そんなドブみたいな服!」とダメだしするかな?とニヤニヤする。せっかくだし何かを差し入れようかな。花粉の季節は手が荒れるといっていたことを思い出して、彼女の好きな香りのハンドクリームを購入する。

紙袋のきれいにつけられた角をみつめているとうれしくなる。

プレゼントはあげる側の楽しみというけどほんとうにそうかも。

なんだか、久しぶりに安心できるひとに会える。そんな気持ちでいた。

だけど。

待ち合わせの場所に来た彼女を見て、私は驚いて固まる。

そのまま新宿駅西口前の人波に押し出されて、誰かにぶつかってよろける。

その時当たってしまった人は私の母と同じ位の年齢であろう方で、顔を合わせるとひどくいやそうに眉を寄せた。私は咄嗟にすみませんと言った。近寄ったAちゃんが「何やってるのもう」とたしなめながら、一緒に二・三度頭を下げてくれる。

「どうしたの貧血なの?」

今までと変わらない口調で私をのぞきこむ。

どうして四月の写真で気付かなかったんだろう。

彼女は見た目にも10キロは太っていて、それなのに顔だけはガリガリにこけて、目の周りは黒ずんで窪んでいた。

美しさをあれほど語った唇はがさがさと荒れ、着ているものの裾が汚れている。

「Aちゃん、仕事忙しい?」

思わずそれだけ聞いたのに、彼女はそれから1時間。今私が人に衝突したことがなかったかのように、仕事の楽しさと愚痴をノンストップで話し始めた。

お店に行くのではなくて、そのまま駅の前でのことだった。

私がうなずき以外の何も挟む事もできないほど、話続けて、それから、突然。

「私たちもう遊ぶのやめようか。」

と言った。

付き合っている人に別れを切り出される時はこんな感じなのだろうか。

次々と駅から出てきて、駅に入って行く、人の蠢きが随分ゆっくりに見えた。

理由も聞かなかったし、承諾も拒絶もしなかった。

私は何かに愛着をもつことが怖い。

それが剥がれる時、どんな顔をすればいいかわからないからだ。

けど、やりたくないだけで、そんなことは全然飲み込んでしまえる。

相手の気持ちを大事にできることが、好きってことだと思うからだ。

だからAちゃんが普通に私が嫌いなら、いつでも遊ぶのをやめられる。

でも。

彼女の早口の間ずっと考えていた。

仕事の量が増えて、効率をあげて行く為、毎日判断の速度をあげて。

今、私の顔を見て「楽しくなさそう。一緒にいないほうがいい。」そんな風に考えたのかな。忙しいね。ほんとに、ほんとにいそがしいんだね。

どこかからキーンと高い音がなって、「神は生きている」そんな声が新宿に響き渡る。

それに気をとられているとAちゃんがまた何かを言おうとする。

「仕事が・・・。」

今日何度目か分からない、仕事、というフレーズに私は俯いた顔をあげた。

私の目を見て一瞬口をつぐむAちゃんが見える。

それから私は出会ってから初めて、彼女を叱った。

「いいから少し黙っていなよ。」

 

*異変に気付いてから

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それからも簡単にはいかなかった。

とりあえず落ち着いて話そうとAちゃんの部屋にいくと足の踏み場もないほど散らかっていて、明日は仕事を休もうと言うと叫ぶような声がした。

「休めるなら休んでる!」

彼女は怒鳴るような人じゃない。何年も親しくしていて、そんな感情的な姿は初めて見た。けれど驚き以上に、声を荒げてから、狼狽して、萎れて行くような姿が心配でならなかった。

私を怒鳴ったことに対して罪悪感が膨れていくAちゃんは何度も「どうしてまどちゃんにこんなこと」「しにたい」「こんな自分が大嫌い」と泣いた。私は「そりゃそうだ休めないね。ごめんね。私がわるかったんだよ。」と言ったあと、散らかった雑誌を並べたり、ゴミを拾う。私がだらしなくしているとき、いつも彼女が、片付けてくれたように。

きれいにして、あたたかい食事を作ると、驚くほどの量を口にした。

その後買って来たお菓子を何袋もあけて、すぐに戻した。

背中をさすっているとき、Aちゃんはまた泣いた。

ストレスで、食べて過ぎてしまうのだと言う。肌も爪もボロボロになっている。

それから二週間、Aちゃんは出社を続けた。

「休めない。私じゃないと、多分終わらない。」

こんなことをよく言っていた。この時期が終わったらちゃんと休むから、とも。

週の半分以上の夜から朝までの時間、私は彼女の部屋に居座った。

Aちゃんの様子にはムラがあった。

朝元気でも夜は声も出せないほど落ち込んでいた。

急に何かを始めては、何もかもしたくないと投げ出す。

交友関係を広げて楽しそうにしてると思ったら急に色んな連絡が重荷だと連絡先を削除したり。

仕事について揚々と持論を述べていると思ったら、急に泣き出したり。

時々調子が戻った様子を見せるとその日の夜や次の日にものすごく落ち込んで会話もままならなくなった。

「うつ」なんじゃないかと、心配する人が増えていく。

彼女に正論をぶつける人はたくさんいた。

「そんなんなって仕事してどうするの?」

「普通でいられないなら仕事休みなよ。」

「自分の理想ばっかり言ってたらダメだよ。」

「そんなん組織に所属する以上仕方ないよー。文句言うなら会社やめて起業すればいいじゃん。」

「いちいちそんなことでつっかかってたらどうするの?」

「皆が心配してるのわかる?自分で勝手に追い詰められているんだよ?」

中でも一番彼女を傷つけたのは、悪気のない軽口だった。

「そうなるまで仕事しちゃーだめだよ。バッカだなあ。組織は使うもので、使われたら終わりだよ。」

その人は彼女を励まそうとしただけだったのだと思う。

けれどAちゃんはそれを聞いたとき、吼えるようにがなった。

「じゃあどうすればよかったんだよ!」

 その人は驚いた顔をしたあと、みるみる真っ赤になって「逆ギレじゃん!そんなんだからおかしくなるんだよ!」と言い返した。その時いた知人と2人でその子を帰した後、

Aちゃんから先ほどの強さは嘘のように消えていた。

「しにたい。消えてなくなりたい。」Aちゃんはそればかり繰り返す。

黙ってうずくまってしまったかと思うと、呟くように言った。

「まどちゃんも帰って。」

私は曖昧な顔をしてへらっと笑った。どんな面持ちでいればいいのか分からない。

迷惑そうな顔に気付きながらもそこに居座り続ける為、キッチンの掃除を続けた。

その後に続く私への罵りが遠くに聞こえる。これで嫌われてもいいと思った。

そばにいないと、彼女がしんでしまうのではないかと思って怖かった。

自分のために、そこに残った。私が彼女を失いたくなかった。

大嫌いになられることより、好きな人達がしんでしまうことのほうが、ずっと恐ろしいことだと思った。きれいな部屋で、ごはんを食べて、あたためていないとしんじゃうような気がした。人がしぬかもしれないことはこんなに怖いのだと思った。

とてつもなく不安だったけどAちゃんの前で泣き顔を見せればまた「しにたい」というのがわかっていたから、夜中にトイレの鍵をしめ、両手で口を押さえて私も泣いた。

「ごめんね。」

私を怒っていた声が涙に変わる。彼女にかけよりながら彼女のお母さんと三人で食事した時のことを思い出す。

うつ病なんて、病気なのかしら。今の子はイヤだと色んな理由つけるのよね。うちの子はしっかりしていてよかったわ。」

ベッドでどこも見ていない目をしたAちゃんを、見つめる。

三人きょうだいの一番上のAちゃん。

私もあなたを「しっかり」させていたんだな。

ごめんねと言いたいけれど、それは私がラクになりたいだけだなと思って我慢する。

寝起きのままコンビニに行こうとすれば「櫛を通しなさい」とたしなめてくれたAちゃんの髪に、スナック菓子の欠片がついている。

仕事とAちゃんのこの先の人生なら、Aちゃんのこの先の人生のほうが大事に決まってる。それを他人がいうことは無責任かな。

でも、私は私のために、彼女に元気でいてほしい。

この頃、生きていてくれればそれだけでいいと毎日思っていた。

 

*「抑うつ状態」の診断へ 一ヶ月の休職

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そんな生活も長くは続かなかった。

私は虚弱体質なので、いつもの環境じゃない場所で寝ているうちに熱をだしてしまった。咳き込んでも毎日たずねてくる私を見たAちゃんは「会社を休んでクリニックにいくからまどちゃんも病院に行って。」と言った。

私は予約の電話をいれるまで行かないと、熱でパンパンに腫れた顔で食い下がる。それに根負けした彼女はおそるおそる、メンタルクリニックの予約をした。

それからすぐに「抑うつ状態で休職が必要」と診断されて彼女は仕事を休む事になった。

休めないというAちゃんをお医者さんが優しく叱ってくれた。

「僕は命を助けるために医者になった。だからここに来てくれた以上しにたい、と思うことだけは一緒に直したい。」

その言葉に、Aちゃんは「この人も自分の仕事を頑張っているんだな」と感じたと言う。

「誰だって仕事してしんどいのに、私のこれは病気なの?甘えじゃないのかな。みんな頑張っているよね。」

病院の会計を待っている時、Aちゃんがバッグに診断書をしまいながら独り言のように話しかけてくる。初めて見る、夜をこわがるこどものような顔だった。

私はその返事をせず、お財布に幾ら入っているかをたずねた。

それから「このまま長野に行こうよ」といった。

長野にうつを直す秘湯があるとかではない。急に雲場池が見たいな、と思った。

「何言ってるのよ。あんた仕事だいじょぶ?でも旅行にいくこと自体はどうせ休みだからいいよ。帰ってちゃんと日にち決めてホテルとか新幹線の予約とかしようよ。」

もっともなことを彼女は言う。

「今から行こうよ。」

「何いってんの、コンタクトの液とか・・・。」

常識的なことをいうAちゃんを説き伏せて、押し込むように電車にのせる。

もろもろの支払いをばたばた終わらせる。私も財布とスマホくらいしか持ってない。

何食べようかな、と思いながらシートに座って私はすぐ眠ってしまった。

目が覚めたらAちゃんもすっかり寝入っている。

着く頃には暗いだろう。泊まるとこあるかな。そう思いながら携帯を取り出す。

明日なにしようかな。何も持ってきてないからコンビニを探さなくちゃ。

そんな事を考えているうちに、新幹線はすごい速度でAちゃんを東京と仕事から離していく。

寝顔を見ながら思う。起きたら仕事には行きたくても行けない。

仕事じゃない自分も自分だって、思い出してくれるかな。

「あ-ボートって乗ったことないな。」

思わず口にだす。明日はそれしよう、と思う。やったことないけど漕げるかな。

私が声を出したせいなのかAちゃんがうっすら目を開けて

「こんな私を見たらおかあさんがっかりするかな。あんたはしっかりしてて手がかからないが口癖なのにさ。」

と苦笑した。

私はもうすっかりぬるくなったコーラを飲んでから

「がっかりしないよ。」と答える。

 誰かにがっかりされないように生きなくてもいいって、説明するには何ていえばいいんだろう。

*それから

 

仕事での立場や結果は、努力と時間の集積によって成り立っている。

だから簡単にそれを捨ててとかやめてとか、言えないけれど。

でも、それを休みたくなってもともだちが好きかどうかなら言える。

それがなくても好き。好きに決まってる。

うつのこと、今もきちんと理解しているとは言えない。色んなケースがあると思う。

でも、自分の友人との経験で思ったことがある。

この世には偉い子がいる。

とってもエライ、よい子だ。

自分をレベルアップさせたり、カスタマイズして先に進むことは当然で、いつも昨日より良くなることを自然に課している。

仕事や、人間関係。それらが上手にまわるための大きな丸が欠けたら、あたりまえにそれを補おうとする。

その人達は「できる人」と呼ばれて、だんだん 大きな丸の修復業務をその人達だからこそ出来る仕事だと考えてしまう人がでる。

手伝うとか、相手の時間や力を削っているという意識がなくなる。

それでも「できる人」は、当たり前に大きな丸を修復しようとする。

多くの場合、その時自分の事をあとまわしにする。

その生き方は尊いと思う。

けどたまに「自分でいることがいやになったり」「自分に与えられた役割をやめてはいけない」「自分を優先してはいけない」と思ってしまったら。

違う生き方を選んでもいいってことを覚えておいてほしいなと思った。

自分のしたいことを選ぶことはあたりまえのことなんだから。

ただ私が思うのはそれだけじゃない。

軽井沢の池でボートにのって、鴨に追われて遊んでいたらAちゃんは久しぶりにお腹を抱えて笑っていた。

それが嬉しくて、私はやっぱり私のために、この人に生きていてほしいんだなと思った。私は私のエゴで、好きな人に仕事のことでしんでほしくないんだ。

私は自分勝手だから、私が好きな気持ちをがまんできない。

「石の教会にいきたい」

「何いってんの!午後は軽井沢でアウトレットいくんだから!早く歩いて!」

私をひっぱる彼女の背中をみながら、声を掛ける。

「いつもしっかりしなくていいよ。」

生きていてくれたらそれでいいから、と伝えると彼女は振り返ってこういった。

「ずっと、まどちゃんがいつも捨て身で本心を言ったり、何でも顔にでる所が好きだった。私は嘘つきだからさあ。」

それからちょっと間をあけてほんとにごめんねと言った。

「顔にでるかな?」

「まどちゃんの本心なんて世界中が知ってる」

「こわい。もう家から出ないわ。」

素直みたいにいってくれる人はいるけど、私はとてもわがままで思ったことをすぐ口にしてしまうだけなのだ。だから、本心を隠してがまんしたり強くいるひとのほうが、ずっとずっと偉くて心配なんだといつも思う。

歩いていく途中に透明の水がきらきらした小川があって、きれいだねーとニコニコする。そしたらすぐ傍にそれはもう恐ろしい形の虫の群れを見つけて二人で言葉にならない声をあげて走り去る。

日ごろの運動不足がたたって私がはあはあとしゃがみこんでいると、Aちゃんも同じように小さくなっている。そしてそのまま蹲って長い時間泣いた。

それを見て私もたくさん泣いた。

泣いた後起き上がる時「ちょっと私たち自我に入り込みすぎじゃない・・・?やばくない・・・?」と反省会をして歩いた、また笑う。

そういえばその後ノリで買ってしまったふざけたTシャツはどちらも着ていない。

それから結局二ヶ月の休職を経て、彼女は今。

職場に復帰して半年がたつ。

疲れたらすぐに休むし、みんなに優しくしなくなった。

できないひとはきちんと叱るし、人の仕事を抱えてあげなくなった。

相変わらずできるし頼りにされているようだけど、自分の分以上の仕事は基本しないと言っていた。

人を集めて遊ぶこともなくなった。

彼女がメンタルを病んでダメになったと噂する人もいる。

性格が悪くなったと言う人もいる。

偏屈なやつだと嘲笑う人もいる。

あんなにたくさんだった彼女の交友関係は20分の1くらい縮小された。

離した人も離れていった人も数え切れない。

 

けどその代わり、彼女は毎日それはとても楽しそうに笑っている。

 

*

長い個人的な思い出話を読んでくださった方がいらっしゃいましたらありがとうございます(*´∨`*)

それではまたお便りします 

円野まど

 

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