こちら孤島のまどよりお便りします

円野まどの恥の多い日々の記録

弟と喧嘩した

 

〒 みなさま

 

普通の、毎日の出来事や気持ちをつづる、日記の意味に忠実なお話です。

(孤島から思うこと のカテゴリは普通の日記になります。)

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*登場人物

私 筆者円野まど。引きこもりの甘ったれ。

しゃん 私のパートナーで家主。

でんきゅう 私の子供+弟+親友の真ん中にいる。サラダチキンを愛する21歳

アイちゃん 仲の良いオネエさん。三人きょうだいの一番上。

 

家に迎えに来て私の顔を見るなり「弟と喧嘩した」とアイちゃんが言った。

感情的になっている様子はなかったけれど、とりあえず「空腹だとろくなことを考えない」という信条のもと二人でカフェに向かう。

一通り注文が揃って落ち着いた所で、話が再開された。

「弟がね、いつの間にか仕事をやめてバイトになってて、ついでに貯金もないってことが発覚したの。それでちょっと話を聞いて見たの。」

「うん。」

「そしたらとりあえず食べて行ければいいからって言われた。将来に特に希望がないって言うのよ。落ち込んでいるわけじゃなくて、何もしたいことがない、夢もない。ただ何となく毎日過ごしていて、そういう足を前に出したら生きられるうちだけ生きていたい。って言うのよ。」

「それってどういう話?」

自分が注文したパエリアに入っている貝を殻から外すことに苦労していたが、平静を装って返事をする。平日の夜の店内は、それぞれの話が耳に入らない程度に空いていた。

「この前実家に帰った時、弟のことお母さんに相談されたんだよね。バイトは再就職先が決まるまでだと思ってたのに、正社員に戻ろうとしないのが心配だって。だから、資産運用とか貯金とか、老後のことだけはしっかりやっておきなって話したのね。」

 「そうだねえ。」

「弟にはそういうのいいからみたいな事言われた。なんていうか・・・要約すると、生きられなくなったら生きるのをやめるから大丈夫だよ、みたいなことを弟は答えた。両親は弟が無気力になっちゃった!このままでは世捨て人になっちゃう!どうにかして!みたいな感じのことをあたしに言うのよ。」

「無気力かあ・・・あんまり経験ない。思春期特有の患い中はよく自分の罪を数えてたけど。

黒歴史やばい。」

「今でも布団にぎりしめてウワアアアってなるやつ。残念だけどいっぱいもってる。」

「でしょうね。」

アイちゃんは笑顔を作ってくれたけど、目が疲れていた。

彼女は三人きょうだいで、妹さんと弟さんがいる。

大学を出て、就職して一人暮らしを始めてからあまり家に帰らなくなったのだと言う。

東京と、神奈川でそんなに離れてはいないのだけど、身構えてしまうそうだ。

大人になったら家族でいるより一人でいるほうが楽に感じてしまって、きょうだいとは従兄弟くらいの距離感になっていると前に話していた。

個人差があると思うのだけど家族との近さは人それぞれだ。ほどよい間隔があるほうが傷つけあわずにいられるという場合があって、彼女のケースはそれだと思う。

数ヶ月ぶりに実家に寄ったら、弟さんが「がんばる事をやめた」と言っていたそうだ。

「それに何て返したの?」

二個目の貝はスルッときれいに外れた。確実にレベルが上がっている。

貝外し師レベル2。

「まわりの心配の重みまで自分で責任とれるの?って言ったけど、言ったけどねぇ・・・。」

「うん。」

「言ったけど、はいはいみたいな感じであんまり相手にされなかった。あたしも自分で、見当違いのこと言ったような気がするよ。それ以上言葉が出なかった。」

「うん。弟さん何かあったのかな?」

こういう事は、どうしてそうなってしまったかとか、どうしたらそれを解決できるかとか、これをすれば絶対!という正解がないから、一言発するのがとても難しい。

人の心が複雑な様に、人の作った社会や思想全部、なかなか込み入った構造になっているんだろうなと漠然と思う。それに当人がそこに至るまで、何も考えなかった筈がないから、簡単に何も言えない。

「あったのかな。なんか、もともとこういう人間だけど、お母さんの期待や社会に同調してきただけみたいな。そんなようなこと言ってた。」

夢ややりたいことがあるから偉いわけでも、それがなければダメなわけでもなくて、「明日自分がなくなるなら仕方ない」という感覚を分かるには、私はまだ未熟なんだと思った。

「でんきゅうと遊び始めた頃、したくないことはあるけど、したいことは特にないって言ってたこと思い出すなあ・・・。」

「言ってたね。あの時まだ16才なのに枯れちゃって。」

「若いから夢があってエネルギーに溢れてるっていうのが絶対じゃない時代なのかもね。ずっと平熱、でもそれはそれで新しい幸せの形が築かれていくんだよね。」

「かわるー!時代がかわるぅうう!」

「これは・・・例のあれじゃない・・?」

「多様化!」

口調はふざけていたけれど、思っていたことはたぶん二人ともいたってまじめだ。

私は、自分の知らない価値観が出てきた時たとえそれに共感できなくても「変わってしまった。」とか「怠惰になった、未熟になった」と断じきれないものだと思っている。

日々さまざまな価値観が生まれ、それがもしかしたら新しい可能性を生むかもしれないので自分の肌で分からない感覚ほど、ゆっくり考えたいと思っている。

それでもスッと頭に入ってこないときはとりあえず「これも多様化なのかもしれない」と書かれた箱にしまっておく。そして時間のある時取り出して、知らないこととどう付き合うのか自分なりに検討してみるのだ。

最近の子は欲がないとか、無気力だとか、いろいろな話を聞くけれどそれが真実なのかもわからない。

「あたしはスッゴイしたい!ってことをしているのかわからないけど、一応日々、したいことの中から選んで生きてるからその受動的な生き方がわからなくて、なんて言っていいのか本当わかんないなー。」

「もう弟さんとはいえ、別世帯っていうか、どこまで口出していいかすごく迷うよね。というかそれ、喧嘩なの?」

「もう弟からしたら、こっちが乱暴なこと言ってる感覚みたい。自分の価値観を押し付けないでくれって、向上心のない人間もいるんだぞみたいな。」

「うーん・・・難しいね。」

「だからうるせーなじゃあもういわねーよ!!って言った。」

「アイちゃんの方がめっちゃきれてるじゃん。」

「そう。弟は、2階に上がっていってバンッてドア閉める感じ。夕飯も、あたしがいるから降りてこなかった。」

「かわいい。」

「かわいくないー!ぜんぜん可愛くない!だめねー身内だと許せなくて。」

最近思うのは白か黒か、正義か悪か性質がきれいに分かれていることのほうが少ないということ。私は危なくない生き方、できるだけ困る可能性の低い生き方をまわりの人に願ってしまう。でも、それは押し付けてはいけないことで、誰が何を幸せかはその人自身が自分で答えをだしたものだけが正解なんだ。

「弟さんがそれを本当にしたいかどうかかなあ・・・。」

「お母さんがすごく心配してる。あたしはもやもやーっと、甘えてるだけにみえちゃうんだよね。もちろんそれにいたる経緯とかあって、心が疲れている方とかそういう事情があるケースは除いてなんだけど、したいことがないとか、欲求が低すぎる事は、その分責任を放棄している様にも見えるの。そしてそれは誰かがやってくれてる。もちろんしぬほど追い詰めたいわけじゃないよ。でも、傍にいるとなんかもやもやする。許せないのかな、正直言って。これって、昭和っぽい?」

「いやー昭和も平成もないでしょ。アイちゃんは弟さんが心配なんだよね。後で困るって思うから、やめさせたくなるんじゃない?」

明るい口調だけど、彼女はたぶんすごく悩んでいると思った。

アイちゃんのジュースは、来た時のままちっとも減っていなかった。

「やりたいことがない、それが悪いことじゃないんだよね。でも、自分を見失いそうだからまたしばらく、帰るのよそうかな。」

「後悔しないほうを応援する。」

「たぶん最後は自分の選択なんだよね。自分の選択の結果で人生が続いていくんだ。分かっているの、これがあたしが出した答えなの。でも、なんで身近な人だと割り切れないんだろうね。」

「人間だもの。」

「スーパーみつを先生!」

私たちは繰り返しつまらないことを話して、またねと家路についた。

自分の選択の結果で人生が続いてく。その言葉を心の中で繰り返していた。

遠くに新宿のビル群がピカピカ光っているのが見える。

一緒にいたいひとや、大切にしたいひと、叶えたいことと離れ離れにならないように私は今日を決めていこうと思った。

 

*あとがき

帰り際、アイちゃんに「なんか元気でるために出来ることある?」と聞いたら

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とさらっと俳優の窪田正孝さんに会いたい!と願ってきたんですけど

まあ、無理じゃないですか・・・

「しゃんかでんきゅうなら会わせられるよ!」と言ったんですけど

「それあたしでも会えるからいい・・・。」と断られました。

乙女に活力を与えるものについて調べようと思います・・・

それではまたお便りします!

円野まど